知らぬ間にじわじわと進行していることが多い「貧血」。日常生活のなかでなんとなく動悸や息切れ、疲れを感じやすくなったなど、はっきりとしない症状が続いていても、なかなか病院受診までにはいたらないかもしれません。ですが、実はこれらの事象の裏には重大な病気が潜んでいることもあります。そこで今回は貧血の対処法から治療が必要な数値、自分で工夫できる食事などについてまとめてみました。貧血症状のある方、必見です。
これって貧血?
なんとなく疲れやすいなど、初期に感じられる症状は?
貧血とは血液中の赤血球内に含まれる「ヘモグロビン」が、基準の数値以下に減少した状態です。ヘモグロビンは酸素と結合し、体中に運搬する役割を担っています。そのヘモグロビンが足りていない状態=体の中の酸素量が足りてない状態であるともいえます。貧血のおもな初期症状は動悸、息切れ、疲れやすい、だるい、めまい、立ちくらみなどが代表的です。症状が進行すると頭痛や耳鳴り、食欲低下、スプーンネイル(爪がスプーンのように反り返った形になること)、氷などを好んで食べる異食症のような症状があらわれたりすることがあります。
貧血の種類とは?
貧血はおもに4つに分類されます。
- 鉄欠乏性貧血
- 再生不良性貧血
- 巨赤芽球性貧血(悪性貧血)
- 溶血性貧血
動悸や息切れ、疲労感などは上記の全てに共通する症状です。鉄欠乏性貧血とほかの種類の貧血の違いは、ヘモグロビン以外の数値にも異常が現れるので 、血液検査で鑑別することができます。鉄欠乏性貧血以外の貧血は早期に医学的管理や介入が必要になることもあるため、注意が必要です。
鉄欠乏性貧血
全貧血のうち、7割を占めるのが鉄欠乏性貧血です。ヘモグロビンを生成する鉄分が不足することで発症します。ゆっくりと進行する場合、自覚症状が全く現れないこともあります。鉄欠乏性貧血の診断は、ヘモグロビン値のほかに血液内にある鉄分量「血清鉄」や、赤血球の大きさを見る数値「MCV」なども参考にされます。
再生不良性貧血
骨髄の造血幹細胞が減少し、赤血球や白血球などの血球成分の生成能力が低下した状態が、再生不良性貧血です。血液検査上、すべての血球成分が減少した状態になるのが特徴で、先天的なものと後天的なものがあります。
巨赤芽球性貧血(悪性貧血)
ビタミンB12や葉酸などの吸収不全によりおこる貧血です。ビタミンB12や葉酸が欠乏することで血球の生成障害がおこり、正常な赤血球が生成不能となります。そのため、血液検査上はヘモグロビンとMCVという赤血球の大きさを測る数値に異常値があらわれます。巨赤芽球性貧血は胃壁細胞や回腸の障害で吸収障害がおこることが原因です。
溶血性貧血
赤血球の寿命が通常(120日)よりも短くなる状態で、赤血球の細胞膜が破壊されます。その結果ヘモグロビンの成分が流れ出てしまうことにより、貧血症状があらわれます。溶血性貧血は病気や外力などが原因となりますが、とくにマラソンなどの足底からの外力が継続的にかかることによっておこる溶血性貧血を、スポーツ貧血と呼ぶこともあります。
貧血指標の一つ、ヘモグロビンの基準値はどのくらい?
一般的な基準値は、男性と女性によって異なります。
ヘモグロビンの基準値
男性→13.1~16.3g/dl
女性→12.1~14.5g/dl
※日本人間ドック学会ヘモグロビン値参照
女性は月経や妊娠・出産・授乳などのイベントにより数値が変わりやすいため、症状によっては継続的な血液検査が必要になることがあります。気になる症状がある場合は、病院で医師に相談してみるとよいでしょう。
ヘモグロビンが基準値以下の場合は、数値により治療法は異なります。
- 10~11.4未満→軽度の貧血(食事などで対処を試みる)
- 7~10未満→強度貧血(投薬治療の対象となることがある)
- 5~7未満→重症貧血(ヘモグロビン値以外の検査も開始し輸血の使用を検討することが多い)
(厚生労働省赤血球濃厚液の適正使用要約参照)
※ヘモグロビン値は一つの参照数値です。実際には基礎疾患や患者さんの病態により検査方法、治療方針は異なります。
鉄欠乏性貧血の発生原因とは?
根本となる大きな原因疾患がないにも関わらず、とくに女性は貧血になってしまうことがあります。月経や妊娠・出産などの女性固有のイベントのみならず、無理なダイエットや継続的に行われる激しい運動などの生活習慣が貧血の原因となることもあります。また、特定の栄養素の不足や、けがによる大量出血、消化管などからの持続出血なども、原因となり得ます。また、男女ともに、成長期には必要な鉄分量が増加するため、貧血がおこりやすくなります。
まとめると、貧血の原因は以下となります。
- 鉄分の摂取不足(ダイエット、栄養不足、生活習慣など)
- 鉄分の必要量の増加(妊娠、授乳、成長期、激しい運動など)
- 鉄分の喪失(持続出血、月経など)
鉄欠乏性貧血の対処法・治療について
鉄欠乏性貧血は、その原因により対処法は異なります。基本的には鉄分の補給が基本的な対処・治療法です。
鉄分の摂取不足または必要量増加が原因の場合
過度なダイエットなどにより、必要な栄養素が不足することで、ヘモグロビンがきちんと生成されなくなり、貧血症状があらわれます。また、激しい運動により、筋肉内の鉄分の需要が上がり、結果的に貧血となることもあります。基本的には1日3食、バランスよく食事摂取することが重要です。鉄分は毎日少しずつ失われています。過剰に摂取しても、そのまま体外に尿として排泄されてしまうので、毎日の食事から少しずつ摂取する必要があります。
持続出血や月経など、鉄分の喪失が原因の場合
原因となる疾患がある場合、治療を速やかに行います。その間の補助療法として鉄分を補給する食事、内服薬や注射薬を使用します。月経中はいつもより、鉄分を意識した食事をとるとよいでしょう。
貧血のときに意識して取りたい食事とは?
一日に推奨される鉄分の摂取量は、成人男性では7.5mg、成人女性では10.5mgほど(月経のある女性の場合、月経のない女性は6.5mgほど)とされています。しかし、経口摂取した鉄分は、吸収される過程でその10~15%ほどしか残りません。体内の鉄分は毎日1mgほど損失しますが、女性の場合、月経時にはさらに一日あたり0.5mgの鉄分が損失しているといわれています。妊娠期や授乳期になると、必要になる鉄分量も増えますので、それを加味した食事をとることが重要です。
鉄分を多く含む食材
(ヘム鉄食材)
- レバー生50g→(豚6.5mg、鶏4.5mg、牛2.0mg)
- カツオ生50g→(1.0mg)
- マグロ生50g→(1.0mg) など。
これらに含まれる鉄分はヘム鉄といわれ、吸収性が良いのが特徴です。しかし独特の血なまぐさいにおいが苦手だという方も多いでしょう。この他に、シジミやアサリなどにもヘム鉄は含まれています。
(非ヘム鉄食材)
- 納豆(糸引き)50g→(1.7mg)
- 調整豆乳200g →(2.4mg)
- 小松菜(ゆで75g)→1.6mg
- ほうれん草(ゆで75g)→0.7mg
- ひじき(ゆでステンレス鍋50g)→0.2mg、(ゆで鉄なべ50g)→1.4mg
これらは非ヘム鉄とよばれ、ヘム鉄に比べると体内での吸収率は低い鉄分です。あまり好みがわかれず、だれでも気軽に摂取できる食材が多いのも特徴です。この他に、海藻類や大豆製品、枝豆や切り干し大根にも、非ヘム鉄は含まれています。
鉄分と合わせて取りたい栄養素
ヘモグロビンの材料になる、たんぱく質の摂取は必須です。さらに、非ヘム鉄の吸収を高めるビタミンCの同時摂取、赤血球の生成に必要なビタミンB12や葉酸などもおすすめです。どうしても摂取できない場合などには、サプリメントに頼るのも一つの手ではありますが、基本的には食事から摂取することが前提であると心得ましょう。成人に推奨される1日の各栄養素の摂取量は以下となります。
- タンパク質(男性60mg、女性50mg)
- ビタミンC(男性・女性100mg)
- ビタミンB12(男性・女性2.4μg)
- 葉酸(男性・女性240μg)
貧血時に避けたい物
貧血のときには、逆に避けるべき物があります。それは「タンニン」という成分。緑茶や紅茶などに含まれている成分です。タンニンは鉄分と結合する性質があるため、鉄分の吸収を阻害します。また、ハムやソーセージ、カップラーメンなどに含まれる「リン酸カルシウム」も鉄分の吸収を阻害します。玄米・おからなどの不溶性食物繊維も鉄分などのミネラル分を吸着し、吸収を阻害します。
おすすめの対貧血メニュー
鉄分だけではなく、ビタミンやたんぱく質も一緒に摂取できるメニューです。
- レバニラ(豚レバー50g→6.5mg)
- かつおのたたき(カツオ生50g→1.0mg)
- ひじきと大豆の煮もの(大豆ゆで30g→0.7mg+ひじき ステンレス鍋でのゆで調理50g→0.2mg)
- あさりとほうれん草のパスタ(あさりむき身20g→5.9mg+ほうれん草 ステンレス鍋でのゆで調理50g→0.2mg)
鉄欠乏性貧血のときにおすすめなのが、鉄鍋を使用して調理をすることです。鉄鍋を使用して調理を行うと、鍋本体の鉄分が溶け出します。食材に含まれる鉄分の含有量が1.5倍になるといわれているので、慢性的に貧血症状がみられる場合におすすめの調理法です。
※厚生労働省eヘルスネット参照(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-008.html)
まとめ
「貧血」は早期に発見することができれば、食事などの日常生活の工夫で十分対処できる場合が多くあります。とくに女性は、月経周期や妊娠・出産・授乳などのイベントに合わせ、鉄分の摂取を意識することで重症化の予防が期待できます。貧血症状のある方は、日々の生活習慣や食事からの鉄分摂取を意識してみてくださいね。
【参考文献・資料】
「日本人の食事摂取基準」(2020年版)厚生労働省
鉄材の適正使用による貧血治療指針
鉄欠乏性貧血の治療指針