健診で「肝機能異常」の指摘、どうすればいいの?

Special Column #02

年齢を重ねるにつれ身体の様々な不調や病気が気になるという方も増えてくることでしょう。若い頃に比べ、身体の変化に敏感になったり、健康な身体作りを意識し出したりする方も多いのではないでしょうか?
健やかな身体を作るには、第一に今現在のご自身の状態を知ることが大切です。生活習慣病やがんなどの病気は発症したとしてもすぐに症状が現れるわけではありません。手遅れになる前にできるだけ早く治療を開始するには、症状が現れる前の早い段階で病気を発見することが大切です。
そのために行われるのが健康診断ですが、実際に受けて症状がないにも関わらず「異常あり」や「要精密検査」と判定されると思いのほかショックを受け、心配になりますね。
しかし、健康診断はただ受けるだけではなく、異常が見つかった時に適切な対策を行うことが重要です。
そこで今回は、中年以降に現れやすい「肝機能」の異常について詳しく解説します。健康診断で肝機能が引っかかった方はぜひ参考にしてください。

そもそも肝臓はどんな働きをしているの?
働きが悪くなると?

肝臓は、右上腹部にあり、私たちの身体の中で最も大きな臓器とされています。その重さは成人男性では1,400g、成人女性では1,200gにも及びます。
肝臓の働きは大きく分けて3つ。まずは、どのような働きがあるのか詳しく見てみましょう。

タンパク質の合成と栄養の貯留

私たちは身体に必要な栄養素やエネルギーを確保するために飲食をしています。しかし、食べ物や飲み物から摂ったものが即座に体内で利用されるわけではありません。
飲食によって取り入れられた栄養素は胃から腸へ流れていく過程で、様々な消化酵素の働きを受けて分解されていきます。そして胃や腸の壁から血液中に吸収された栄養素の多くは肝臓に運ばれて蓄えられます。こうして貯蓄された栄養素は必要に応じて分解され、エネルギーを作ったり、身体に必要なタンパク質を合成したりしているのです。
このため、肝臓の働きが悪くなると食事を摂っても栄養素やエネルギーを効率よく利用できなくなるため、慢性的な栄養不足に陥ることになりかねません。
また、肝臓が合成するタンパク質として重要なのが血液の濃度を調整したり、様々な物質と結合して全身へ運搬する働きのある「アルブミン」と血液を固める作用をもつ「フィブリノーゲン」などが挙げられます。これらのタンパク質が正常に作られなくなると、むくみが生じたり、出血しやすくなったりするなど全身に様々な影響が現れます。

解毒作用

肝臓には体内で生じた老廃物や飲食物・薬剤などに含まれる身体によくない物質を解毒する働きがあります。つまり、これらの有害物質を分解したり、別の物質にしたりすることで身体に悪影響を及ぼさない物質に変化させているのです。こうして肝臓で毒性の低いものに生まれ変わった有害物質は尿などと共に体外へ排出されていきます。
肝臓の働きが悪くなって十分な解毒作用が行われなくなると、体内に有害な物質がどんどん蓄積されます。結果として脳などの重要な臓器にダメージを与えることも少なくありません。

胆汁の生成・分泌

肝臓は、脂肪やタンパク質の消化に必要な「胆汁」と呼ばれる消化酵素を含む液体を生成・分泌する働きも担っています。このため、肝臓の働きが悪くなって胆汁が十分に生成されたり分泌されなくなったりすると、脂肪やタンパク質の消化や吸収が低下していきます。
また、胆汁には「ビリルビン」と呼ばれる色素が含まれており、肝臓の病気などで胆汁の流れが悪くなるとビリルビンが体内に蓄積し、皮膚や目が黄色くなる…といった「黄疸」と呼ばれる症状が現れます。(※1)

肝臓の機能は
どうやって評価する?

肝臓は私たちが生きていくために欠かせない大切な働きを担う臓器です。一方で、全身を巡った老廃物や有害物質が行き着く場でもあるため多くのダメージを受けやすい臓器でもあります。
しかし、肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれるように、ダメージを受けて働きが悪化したばかりの頃はほとんど自覚できる症状は現れません。先ほどご紹介したむくみや黄疸などが現れたときにはもはや手遅れとなることも少なくないのです。
そこで肝臓の働きの状態を把握するのに必要なのが健康診断などの「血液検査」です。というのも、肝臓の機能障害は自覚症状がない場合でも血液検査の結果に反映されやすいからです。年齢を重ねると知らず知らずの内に肝臓に負担をかけていたということも少なくありませんので、1年に一度は血液検査で肝臓の状態をチェックしましょう。

血液検査で何が分かる?どんな病気の可能性が?(※2)

AST(基準値7~38IU/L)とALT(基準値4~44IU/L)

ASTとALTは肝臓の機能を調べるための代表的な検査項目です。いずれも肝臓の細胞で作られる酵素で、アミノ酸をつくる働きを持ちます。
肝臓に何らかのダメージが加わって細胞が破壊されると、血液中にこのASTとALTが大量に放出されるため、血中濃度が上昇します。このことから、ASTとALT濃度が上昇しているときは肝臓にダメージが生じ、働きが悪くなっていることが分かるのです。
なお、ALTの多くは肝臓の細胞に存在しますが、ASTは肝臓以外に筋肉や赤血球中にも存在します。このため、ALTが正常でASTのみが上昇している場合は肝臓の機能は保たれていると考えられます。
また、ASTは血液中に放出されてから12時間前後で分解されますが、ALTの分解には50時間ほどかかることがわかっています。そのため、ALTの上昇の程度よりASTの方が高い場合は急性肝炎など肝臓の細胞に急激なダメージが生じていることが考えられます。
一方、ALTの上昇の方が大きい場合は、肝硬変や肝臓がん、脂肪肝、アルコール性肝炎など慢性的な肝臓へのダメージを引き起こす病気の存在が疑われます。

γ-GTP(基準値 男性80IU/L以下、女性30IU/L以下)

γ-GTPはタンパク質を分解し、肝臓の解毒作用に関与する酵素の一つです。「胆汁」の通り道である胆道で生成され、肝臓で働いたのち、胆管を経て十二指腸へ排出されていきます。しかし、胆管結石やがんなどによって胆道が詰まると肝臓に必要量以上のγ-GTPが溜まり、やがて血液中へ放出されます。このようなことから、γ-GTPは肝臓の機能を評価できるだけでなく、胆管や胆のうなどの病気の有無も推測できる検査項目なのです。
また、γ-GTPはお酒の飲み過ぎによって肝臓の解毒作用が疲弊すると上昇する性質があるため、アルコール性肝障害やアルコール性脂肪肝などを発見するきっかけにもなりえます。

ALP(基準値50~350IU/L)

ALPはリン化合物と呼ばれる栄養素を分解する酵素です。肝臓や腎臓、腸、骨など全身の様々な場所で作られます。しかし、最終的には肝臓で処理されて胆汁の中に流れ込むため、胆石やがんなどで胆汁の流れ道である胆道の流れが悪くなるとALPが血液中に放出されるようになります。このことから、ALPは胆道の流れの良し悪しを推測する指標となるのです。
肝臓自体の細胞のダメージの大きさを示すASTやALTと共に検査を行うことで、肝機能以上の原因がどこにあるのか把握することができます。

総ビリルビン(基準値0.2~1.2mg/dL)

ビリルビンは寿命を終えた赤血球が分解される際に生じる色素です。ビリルビンは肝臓に運ばれ、胆汁の中に流れ込んで体外へ排出されます。通常、血液中にビリルビンはほとんど存在しませんが、胆汁の通り道である胆道の流れが悪くなるとビリルビンが溜まり、血液中に放出されるようになります。
生まれつきビリルビン値が高くなる方もいますが、胆道の流れが悪くなったときばかりでなく肝硬変や肝臓がんなど肝臓や胆道の機能に大きなダメージを与える病気が進行すると血液中のビリルビン濃度が上昇していくのが特徴です。つまり、総ビリルビン値が上昇している方は特に注意が必要と考えましょう。

健康診断で肝機能が引っかかったら、
まずは病院へ!

自分は健康!どこも悪いところはない!と思っていても、健康診断で肝機能が引っかかった時は必ず病院で精密検査を受けるようにしましょう。
これまでに挙げたような肝臓の病気は、発症初期の段階では自覚症状がないことがほとんどです。病院でさらに詳しい検査を行い、治療が必要な病気なのか、日常生活の中でどのようなことに注意すればよいのか確認することが大切です。

肝機能が引っかかった時に行われる精密検査には次のようなものがあります。(※2)

肝炎ウイルス検査

血液や体液を介して感染するB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスは肝臓に慢性的な炎症を引き起こし、肝硬変から肝臓がんへ移行しやすくなります。とくに昭和の時代に集団で予防接種を受けていた方は、注射の回し打ちで肝炎ウイルスに感染したというケースが非常によく見られます。
このため、肝機能の異常が見られた場合は多くは肝炎ウイルスに感染しているか否かを調べる検査が行われます。

腫瘍マーカー検査

がんを発症すると血液中に現れやすくなる「腫瘍マーカー」の有無を調べる検査で、血液検査によって調べることができます。肝臓がんや肝硬変が疑われた場合は、「AFP」や「PIVKA-Ⅱ」などの腫瘍マーカーを調べることとなります。

腹部エコー検査

肝臓や胆のう、胆管などの状態を簡便に観察できる検査です。特に胆石や脂肪肝、がんなどを発見しやすく、肝機能の異常が見られた場合はほぼ行われる検査と言っても過言ではありません。

腹部CT、MRI検査

血液検査やエコー検査で肝臓や胆のう、胆管などに胆石やがんなどの病気があることが疑われた場合、さらなる精密検査として行われる検査です。特に胆道系の病気が疑われる場合はMRI検査を実施するのが一般的です。

日常生活で注意すべきことは
どんなこと?

病院での精密検査で病気がない、または病気はあるけれども治療の必要がないと診断された方も、肝機能に異常が見られた場合は生活習慣を見直すことが必要です。
具体的には次のようなことを心がけましょう。

お酒の飲み過ぎに注意!

アルコールの摂り過ぎは肝臓に過度な負担をかけることにつながります。しかし、アルコールは適量であれば健康を害することはありません。厚生労働省によれば1日の適量アルコールはビール中瓶2本、ワイン2杯、日本酒1合程度です。
また、疲れが溜まっているときなどは肝臓への負担がかかりやすくなりますので、「休肝日」を作ることも忘れずに!

高脂肪な食事を避ける

肝臓は脂肪を蓄える働きがあるため、高脂肪な食事を続けていると脂肪肝を引き起こしてしまいます。脂肪肝は肝炎の原因にもなりますので、食事は栄養バランスを考え、適正カロリーを守って摂るようにしましょう。

運動習慣を身に付ける

肥満も脂肪肝の原因になります。忙しい毎日の中では運動不足に陥る方も多いですが、週に2~3日はウォーキングなどの有酸素運動を行って身体に溜まった脂肪を燃焼させましょう。

ストレスや疲れを溜めない

肝臓は非常にデリケートな臓器です。ストレスや疲れなどで身体に無理な負担がかかると、肝臓の働きも悪くなることがあります。日ごろから十分な休息と睡眠をとって無理のない生活を送るようにしましょう。

成田亜希子医師

著者プロフィール

医師:成田 亜希子

東京都出身、弘前大学医学部卒。青森県弘前市在住の医師。
国立医療科学院や結核研究所で研修を積み、保健所勤務経験から感染症、医療行政に詳しい。
日本内科学会、日本公衆衛生学会、日本感染症学会、日本結核病学会、日本健康教育学会所属。

【参考文献】
※1 あすか製薬株式会社|肝臓の役割
https://www.aska-pharma.co.jp/kansikkan/basic/02.html
※2 肝炎.net
http://www.kanen-net.info/kanennet/knowledge/inspection