血糖値とHbA1cとは?検査値を確認して血糖値対策を始めよう

健康診断で「血糖値が高い」と言われたら、何から改善すれば良いでしょうか。血糖値が高くなる原因の多くは生活習慣にあると考えられています。段階別に「血糖値を下げる生活習慣」について解説します。

血糖値とは?

血糖値とは、「血液中のブドウ糖の濃度」を指します。食事をすると、食物中に含まれる炭水化物が分解され、ブドウ糖が小腸から吸収、血液中に入ります。これが「血糖値」です。血糖値が上昇すると、すい臓から「インスリン」が分泌され、ブドウ糖が細胞に取り込まれエネルギー源として使われます。余ったブドウ糖は、グリコーゲンへ変換され、肝臓や筋肉に貯蔵、さらに脂肪としても貯えられ、血中の血糖値はまた下がっていきます。

インスリンの分泌量が不足(インスリン分泌低下)したり、インスリンの働きが悪くなる(インスリン抵抗性)などの要因で、血糖値が下がらないまま、高い状態が続くことを「高血糖」と呼びます。

血糖値についての詳しい解説はこちらをご覧ください。
血糖 | 検査値の解説 | 健康年齢

血糖値が高いとどんなリスクがあるの?

血糖値は、食事をすれば健康な人も変動する値です。食後の血糖値が高い状態は、インスリンの分泌量を増やします。インスリンには、血糖値を下げる働きだけでなく、「脂肪の合成を高め、分解を抑える」作用があるため、血糖を急上昇させ、インスリンを大量に分泌する状態は、肥満につながりやすくなります。食後の急激な高血糖にならないように、普段から食事を意識することが大切です。

また、血糖値が高い状態が続くと血管壁を傷つけ動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞の原因となります。糖尿病は、動脈硬化を原因とする疾患の発症や死亡のリスクを2〜3倍上げることがわかっています。

糖尿病は初期段階では自覚症状はありませんが、高い状態が続くと、「喉の渇き」「頻尿」「体重減少」「足や手に痛みや痺れ」「勃起不全(ED)」「皮膚の乾燥や痒み」などの症状が出てきます。さらに放置することで、3大合併症と言われる「糖尿病性網膜症」「糖尿病性腎症」「糖尿病性神経障害」などが起こる可能性が出てきます。合併症を抑えるためには、HbA1c(NGSP値)7.0未満を目標とすることが大切です。

今の状態を確認しよう

糖尿病の診断には、血糖値だけでなく「HbA1c」(ヘモグロビンエーワンシー)の値を使用します。「HbA1c」とは血液中のヘモグロビンのうち、糖と結合しているものの割合を測定した値です。検査前の食事の影響を受けにくく、過去1~2か月の血糖値の状態を知ることができます。
特定健診では、「空腹時血糖100mg/dl以上、HbA1c5.6〜6.4%で特定保健指導」、「空腹時血糖126mg/dl以上、HbA1c6.5%以上」で医療機関の受診が推奨されています。
合併症予防の観点からは、HbA1cの目標値を7.0%未満 空腹時血糖値130ml/dl未満、食後2時間血糖値180mg/dl未満を目安としましょう。

HbA1cの値の後ろについている(NGSP)とは?

HbA1cの値には国際的に広く使用されているNGSP値と日本で使用されてきたJDS値がありましたが、2014年からNGSP値に統一されました。JDS値からNGSP値への変換は「NGSP値(%)=JDS値(%)×1.02+0.25%」で換算できます。

東京都医師会「糖尿病の判定に関する検査値の扱い方について」

東京都医師会「糖尿病の判定に関する検査値の扱い方について」P2より抜粋
(※2012年4月からHbA1cが変わります

日本糖尿病学会 編・著 糖尿病治療ガイド2022-23P34

日本糖尿病学会 編・著 糖尿病治療ガイド2022-23P34

血糖値を改善させる生活習慣

① 睡眠の改善

睡眠不足は、食欲を増進させます。食べ過ぎや肥満を招くだけでなく、空腹時血糖値の上昇、インスリンの基礎分泌を低下させることがわかっています。糖尿病やメタボのリスクが最も低いのは、睡眠時間が7〜8時間という調査もありますので、睡眠時間をしっかりと確保しましょう。
睡眠の質を上げるには、「朝日を浴びる」「軽い運動をする」「寝る前にリラックスする」などがあります。

②口腔ケア

糖尿病は、歯周病を進行しやすいリスクがあります。歯周病を治療することは、血糖値の改善に効果があることがわかっています。歯周病は、歯周病細菌の感染による感染症です。歯周病が進行することで、細菌群の出す毒素が体内に入り込むとインスリンの働きを悪くし、血糖コントロールが悪くなります。日々の歯磨き、歯石除去に加えて、歯周病治療を意識しましょう。

③体重のコントロール

肥満は、インスリンの働きが悪くなる(インスリン抵抗性)だけでなく、インスリン分泌を低下させる要因となります。まずは、標準体重に近づけるように目標を立てましょう。算出の仕方は、「標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22」です。
例)身長165cmの場合 1.65×1.65×22=59.8kg 標準体重は59.8kg

状態別食事と運動

1.HbA1c 5.6〜6.4(特定保健指導対象者)

食事と運動を意識して、HbA1cの値が改善できるように気をつけましょう。

食事

1.摂取カロリーを抑える
1日の必要摂取カロリー(kcal)/日は、「標準体重(kg)×25〜35kcal(エネルギー係数)」で計算ができます。エネルギー係数は、活動量に応じて設定し、食べる量を意識しましょう。糖質を控えすぎることは返って、リバウンドを起こしやすくなります。食事は、主食(ご飯やパン、麺)、主菜(肉、魚、卵、大豆製品)、副菜(野菜や海藻、きのこ)を揃えるようにしましょう。

~エネルギー係数~
軽い労作(大部分が座位の静的活動)…25~30kcal/kg
普通の労作(座位中心だが、通勤、家事、軽い運動を含む)…30~35kcal/kg
重い労作(力仕事、活発な運動習慣)…35~kcal/kg

2.野菜の摂取を意識する
野菜は食後の血糖値上昇を抑える働きがあります。野菜の他にきのこや海藻類にも食物繊維が多く含まれます。食事の最初に食べるように意識し、1日350gを目標にしましょう。かぼちゃ、レンコン、とうもろこし、いも類は、糖質が多いので食べ過ぎには気をつけましょう。

3.セカンドミール効果を意識する
1日の中で最初に摂る食事が、次に摂る食事の食後高血糖にも影響することがわかっています。これをセカンドミール効果と呼びます。朝食では、食物繊維の多い玄米、大麦、雑穀米、全粒粉パン、オートミールなどを意識しましょう。野菜を最初に食べるベジファーストだけでなく、肉や大豆などタンパク質を最初に食べるミートファーストなども血糖上昇を抑える働きがあります。
また、食事の時間を規則正しく一定にすることは、血糖値のコントロールに役立ちます。

運動

1.毎日、有酸素運動を行う
ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動は、血液中のブドウ糖や脂肪酸をエネルギーの材料し、血糖値を下げるのに効果的です。血糖値は、食後30分~1時間でピークになるので、その時間に合わせ、毎食後15分程度歩いてみるなど、有酸素運動を意識しましょう。

2.週2〜3回レジスタンス運動を行う
腕立て伏せ、スクワット、腹筋など、筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動は、筋肉量を増やし、インスリン抵抗性の改善に役立ちます。スクワットであれば15回を3セット程度から始め、少しずつ負荷をかけていきましょう。

2.HbA1c6.5以上

まずは、医療機関へ受診し、現状の把握と治療方針を相談しましょう。

食事

1.摂取カロリーを抑える
前述と同じく、摂取カロリーを抑えて標準体重へ近づけることを意識しましょう。摂取カロリーの内訳は、炭水化物は40〜60%、たんぱく質は20%、残りを脂質としましょう。

例)標準体重が60kgの場合 60㎏×25~35kcal/日=1,500~2,100kcal/日

このうち炭水化物(60%)900~1,260kcal/日、たんぱく質(20%)300〜420kcal/日、脂質は残り300〜420kcal/日です。1gあたりのカロリーは、炭水化物4kcal、たんぱく質 4kcal脂質9kcalですので、それぞれの1日の摂取量をグラムに換算すると、炭水化物225〜315g/日、たんぱく質75〜105g/日、脂質33g〜47g/日となります。これは、食品の総重量でなく、食品に含まれる各栄養素の重量になります。
例えば、ご飯1膳(150g)の炭水化物量は56g、うどん1玉(200g)43gです。卵1個のたんぱく質量は6g、サラダチキン1枚(125g)28g、納豆1パック(50g)8gです。サラダ油大さじ1(14g)は脂質量14gです。食品の栄養素を詳しく知るためには、食品表示(食品の裏の表記)などをこまめに見ることがおすすめです。

2.野菜を摂取し、食物繊維、緑黄色野菜を意識する
食物繊維は、食後の急激な血糖値上昇を防ぎます。食物繊維は、水に溶けない不溶性食物繊維(小麦のふすま、豆類、穀類、根菜類など)と水に溶ける水溶性食物繊維(海藻類、果物、さつまいもなど)の2種類があります。水溶性食物繊維は、腸内細菌のエサになります。腸内細菌によって生成される短鎖脂肪酸は、エネルギー消費が高まり、脂肪蓄積を予防する働きが期待できます。
緑黄色野菜は、抗酸化作用を持つビタミンA(ベータカロテン)、C、Eを多く含み、酸化抑制、動脈硬化の予防が期待できます。

3.ゆっくりよく噛む
早食いは、短い時間で多量の糖分を取り込むことになるため、急激に血糖値が上昇してしまいます。ゆっくりよく噛むことによって、血糖値上昇が抑えられる働きが期待できます。また歯周病の予防にも役立ちます。

運動

レジスタンス運動と有酸素運動との組み合わせがベストです。
多くの研究で、レジスタンス運動と有酸素運動の併用が有効とされています。同時に行う場合には、レジスタンス運動を先に行うことで、脂肪燃焼が生じやすく、運動後の血糖値変動が少ないことが報告されています。動脈の硬さを和らげる観点でもレジスタンス運動の後に中等度の強度の有酸素運動(運動時の心拍数が50歳未満で100〜120拍/分、50歳以降で100拍/分以内)を行うことがおすすめです。運動は毎日行うことが理想ですが、週3回以上1回20~60分の運動を意識しましょう。

HbA1cが高いと言われたら、糖尿病だけでなく、心血管疾患発症のリスクを意識することが大切です。まずは状態を把握し、食事と運動が基本に生活習慣を改善しましょう。

【参考文献】
厚生労働省 e-ヘルスネット
文光堂「日本糖尿病学会 編・著 2022-2023糖尿病治療ガイド」
時事通信社「最新 健康診断と検査がすべてわかる本」矢冨裕、野田光彦(編著)
厚生労働省 受診勧奨判定値について
保健指導リソースガイド 「腸内細菌」が2型糖尿病や肥満などに影響 メカニズムを解明

奈良ゆうり

プロフィール

管理栄養士
奈良ゆうり