「コレステロール」と言えば、身体に悪いもの、摂り過ぎてはいけないもの、こんなネガティブなイメージを持っている方が多いのではないでしょうか?
コレステロールは私たちの体内に存在する脂質の一つ。悪いイメージが大きいですが、実は私たちの細胞の膜や身体の働きを整えるホルモンの原料となる大切な物質になるため、コレステロールなしでは生きていくことはできません。ただ、コレステロールにはいくつかの種類があり、いわゆる「悪玉コレステロール」と呼ばれるタイプのものが多くなると動脈硬化を引き起こします。すると心筋梗塞や脳卒中など命に関わる病気を発症しやすくなるため、注意しなければなりません。
そこで今回は、コレステロール値の異常とその対策、治療のポイントなどを詳しく解説します。
コレステロールとは
どんな物質?
私たちの身体には4種類の脂質が存在し、いずれも生きていく上で欠かすことができない物質です。コレステロールもその一つで、細胞膜やホルモンの原料となっています。また、食事から摂った脂肪を消化するために必要な「胆汁」と呼ばれる消化酵素もコレステロールがなくては産生できません。このため、コレステロールは私たちが生きていくために非常に重要な物質といえるのです。では、特徴について詳しく見てみましょう。
コレステロールは血液に溶け込んでいる
身体を維持するために必要なコレステロールの20~30%は食事から採り入れられますが、残りの大部分は体内に蓄えられている糖や脂肪を利用して肝臓で生成されています。コレステロールは、水に溶けないため単独で血液中に存在できませんが、「リボタンパク質」と呼ばれる物質と結合することで血液中に溶け込みます。私たちの身体には「カイロミクロン」・「VLDL」・「LDL」・「HDL」の4つのリボタンパクがあり、それぞれ性質が異なります。血液検査でよく調べられるのは「LDL」と「HDL」に結合しているコレステロール値です。(※1)
LDLコレステロールの働き
HDLは主に小腸などで作られ、血管の壁に付着したLDLコレステロールを回収して肝臓に戻す働きがあります。つまり、LDLコレステロールによる動脈硬化を予防する働きを担っているのです。
このことから、一般的にLDLコレステロールのことを「悪玉コレステロール」、HDLコレステロールのことを「善玉コレステロール」と呼びます。(※2)
健康診断で調べる
コレステロール値の見方
現在、一般的な健康診断などで行う血液検査では、「総コレステロール値」・「LDLコレステロール値」・「HDLコレステロール値」の3種類があります。
「総コレステロール値」は結合するリボタンパク質の種類に関係なく、血液中に存在するすべてのコレステロール値の総和です。
一方、「LDLコレステロール値」と「HDLコレステロール値」は先に述べた通り、それぞれLDLとHDLに結合するコレステロール値のこといい、互いに相反する働きを持ちます。
また、近年では「nonHDLコレステロール値」という項目が検査されることも増えてきました。これは、総コレステロール値からHDLコレステロール値を引いた値のことを指します。実は私たちの血液中にはLDLコレステロールとHDLコレステロール以外にも様々な種類のコレステロールが存際しており、HDLコレステロール以外はいずれも動脈硬化を促す働きを持ちます。このため、動脈硬化を生じるリスクをより正確に知るにはLDLコレステロール値だけではなく、HDLコレステロールを除いたすべてのコレステロール値を把握することが大切であると考えられます。そのために算出されるのが「nonHDLコレステロール値」であり、調べられる機会が多くなっている検査項目の一つです。
コレステロールの正常値
血液検査で調べる各種コレステロール値の正常値は次の通りです。(※5)
- LDLコレステロール:60~119mg/dL
- HDLコレステロール:40~mg/dL
- nonHDLコレステロール:90~149mg/dL
なお、 日本人間ドック学会では 平成30年度まで総コレステロールも検査項目に含め、140~199mg/dLを正常値としていましたが、Non-HDLコレステロール(Non-HDL-C)が導入されたことにより廃止されました。
そのため、最近は総コレステロールを検査項目から外す健診機関が増えています。
基準値の範囲外
正常値よりも下回ったり上回ったりした場合、何か悪い病気になってしまうのではないか?と心配になる方も多いことでしょう。しかし、正常値から外れていたとしても、健康上問題とならないケースもあります。
まず、LDLコレステロールは動脈硬化を引き起こしますので高値であればあるほど健康上のリスクは高いと考えられます。一方、LDLコレステロール値が低い場合は、病気によってコレステロールが正常につくられていないこともまれにありますが、基本的には動脈硬化のリスクが低いと考えられますので基準値を逸脱していても問題ありません。
HDLコレステロール値が低値である場合は血液中の余分なコレステロールや血管の壁に付着したコレステロールを回収しきれないため、動脈硬化のリスクが高まります。逆にHDLコレステロール値が基準値よりも高値である場合は、それだけコレステロールを回収できる能力が高いと考えられますので、よほど高くない限りむしろ健康的であると言えるのです。
一方、総コレステロール値はその数値のみでは健康的な状態なのかそうではないのか判断することは困難です。なぜなら、LDLコレステロール値が正常値でもHDLコレステロール値が高い場合は総コレステロール値も上昇してしまうからです。
L/H比って何?
近年、体内のコレステロールの状態を把握するには、それぞれのコレステロール値の測定値ではなく、LDLコレステロール値とHDLコレステロール値の比(L/H比)を重視するという考え方が広まっています。
というのも、LDLコレステロール値が正常値であってもHDLコレステロール値が低下している場合は動脈硬化のリスクが高まるからです。
L/H比を標準で記載している健康機関もありますが、ない場合でも「LDLコレステロール÷HDLコレステロール」で簡単に計算できるので調べてみましょう。L/H比は2.5以上になると動脈硬化になりやすくなると考えられています。(※3)
脂質異常症の基準は?
脂質異常症とは、中性脂肪やコレステロールなど血液中の脂質が増加する病気のこと。かつては「高脂血症」とも呼ばれていた病気で、頻度の高い生活習慣病の一つです。脂質異常症は動脈硬化を進め、心筋梗塞や脳卒中、動脈解離など時に命を落とすこともある病気の発症を促すことが分かってします。
現在、日本動脈硬化学会は脂質異常症の診断基準を次の3つの内どれかに当てはまるものとしています。(※6)
- 高LDLコレステロール血症(LDLコレステロール値が140mg/dL以上)
- 低HDLコレステロール血症(HDLコレステロール値が40mg/dL未満)
- 高トリグリセライド(中性脂肪)血症(中性脂肪値が150mg/dL以上)
また、LDLコレステロール値が120~139mg/dL以上のものを「境界型高LDLコレステロール血症」と定め、「きわめて脂質異常症に近い状態」としています。上の診断基準に満たない場合でも、境界型の方は危険信号が出ている状態ですので注意が必要です。(※3、4)
脂質異常症を
改善・予防するには?
脂質異常症の90%は食生活の乱れ、運動不足、喫煙、お酒の飲みすぎなど好ましくない生活習慣が原因とされています。このため、生活習慣の改善が脂質異常症の改善・予防には効果的です。
脂質異常症には上で述べた3つのタイプがありますが、それぞれ行うべき対策には次のようなものが挙げられます。
高LDLコレステロール血症
脂肪分(とくにコレステロールと動物性の脂肪)の多い食事の摂り過ぎが主な原因であるため、食生活を見直しましょう。また、マーガリンなどにふくまれるトランス脂肪酸もLDLコレステロールを増加させる原因になるため摂り過ぎはNG。
一方、野菜などに多く含まれる食物繊維はカロリーカットにつながるだけでなくコレステロールを便と共に排出する作用があるため積極的に摂るようにしましょう。
低HDLコレステロール血症
HDLコレステロール値は運動不足や喫煙習慣、肥満が原因で低下します。喫煙習慣のある方は第一に禁煙を目指しましょう。また、ダイエットのために適度な食事制限を行うことも大切ですが、このタイプの脂質異常症の方はウォーキングなどの有酸素運動を定期的に行うことが大切です。
高トリグリセライド血症
アルコールや糖分の摂り過ぎが主な原因となりますので食生活を整えて控えましょう。また、中性脂肪は青魚などに含まれるEPAやDHAの働きによって減らすことができますので、魚料理を多く取り入れるのがおすすめです。(※2)
もし、健康診断でコレステロール値の
異常が見つかったら
健康診断などでコレステロール値の異常を指摘されたら、まずは落ち着いて検査結果をよく見ましょう。健康診断の結果は一般的に数値だけで機械的に判定されるためLDLコレステロール値の低下やHDLコレステロール値の上昇などほとんどのケースで問題とならないものまで「異常」や「要精検」と表記されます。
今回ご紹介したポイントを押さえて健康上のリスクはどうなのか考えましょう。
して、脂質異常症の診断基準に当てはまるような場合は医療機関を受診して、詳しい検査を行います。明らかに動脈硬化のリスクが高いと判断された方はLDLコレステロール値を下げる薬による治療が行われます。
しかし、多くはいきなり薬物療法を始めるのではなく、まずは食生活の改善、運動習慣の徹底、禁煙などの生活指導が行われ、2~3か月後に再度検査をして高値が続くようであれば薬物療法の導入が検討されます。
検査結果から「コレステロール値が異常」ということが分かったとしても、自覚症状はまずありません。このため、健康診断などで異常を指摘されても放置する方も少なくないのが現状です。ですが、動脈硬化から危険な病気につながるケースもありますので軽く考えず適切な対処を講じましょう。
著者プロフィール
医師:成田 亜希子
東京都出身、弘前大学医学部卒。青森県弘前市在住の医師。
国立医療科学院や結核研究所で研修を積み、保健所勤務経験から感染症、医療行政に詳しい。
日本内科学会、日本公衆衛生学会、日本感染症学会、日本結核病学会、日本健康教育学会所属。
【参考文献】
※1 日本動脈硬化学会|-脂質異常症治療のQ&A-
http://www.j-athero.org/qanda/q_and_A.html
※2 厚生労働省|e-ヘルスネット コレステロール
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-012.html
※3 OMRON|脂質異常症の新しい診断基準
https://www.healthcare.omron.co.jp/resource/guide/dyslipidemia/02.html
※4 厚生労働省|e-ヘルスネット 脂質異常症/高脂血症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-029.html
※5 人間ドック学会 判定区分
https://www.ningen-dock.jp/wp/wp-content/uploads/2013/09/e94328f0cf4662c5606822396807a878.pdf
※6 日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス(2014)
http://dl.med.or.jp/dl-med/jma/region/dyslipi/ess_dyslipi2014.pdf